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青森地方裁判所 昭和35年(行)1号 決定 1960年7月11日

申立人 江渡シマ

被申立人 大光寺堰土地改良区

主文

被申立人が、昭和三五年一月一九日申立人に対してした別紙目録記載農地についての滞納処分(青森地方法務局十和田出張所同日受付第参四壱号登記)は、青森地方裁判所昭和三五年(行)第二号事件の判決確定に至るまで、その執行を停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

申立代理人の本件申立の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

案ずるに、申立人の提出した疏明資料及び本件当事者主張の全趣旨を総合すれば、申立人は、別紙申立の理由二項の3のロ記載の農地の所有者ではなく、被申立改良区の組合員でないのにかかわらず被申立改良区は、昭和三五年一月一九日申立人が当時申立外江渡敬三所有の前記農地について水利費を滞納したことを理由に申立人所有の別紙目録記載農地に対し、滞納処分をしたこと及び右滞納処分は目下進行中であることについて疎明がある。そうだとすれば、被申立人のした本件滞納処分は、申立人その余の主張につき判断するまでもなく、無効であるというべきであつて、申立人の本件申立は、理由があるから、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 野村喜芳 福田健次 野沢明)

別紙

申立の趣旨

別紙目録の不動産について被申立人が「昭和三五年一月一九日青森地方法務局十和田出張所受付第三四一号水利費滞納処分による差押」に基いて行う公売手続は御庁昭和三五年(行)第二号行政処分無効確認請求事件の本案判決が確定するまでこれを停止する。

との裁判を求めます。

申立の理由

一、被申立人は申立人所有の別紙目録不動産に対し水利費の滞納ありとして土地改良法第三九条により青森地方法務局十和田出張所受付第参四壱号をもつて差押登記を為し次いでこれにもとづき公売手続を為している。

二、然し乍ら右滞納処分は違法且つ無効のものである、その理由は次の通りである。

1 第一に申立人は被申立人の組合員ではなく被申立人に対して水利費の納入義務を負うものでもない。

従つて被申立人の前記滞納処分は滞納者以外の第三者である申立人の所有不動産を差押えた違法がある。

2 第二に被申立人は前記滞納処分を為すにつき滞納金の督促状を一度も発していない。加うるに十和田市長に対しても右滞納金の徴収を請求していない。

即ち土地改良法第三九条第一項乃至第五項所定の前提手続を全く欠いた重大な瑕疵ある滞納処分である。

3 第三に前記滞納処分の原因となつた水利費の滞納は全然ない。その詳細は以下の通りである。

イ、被申立人は前記差押をしたがそれについても申立人に対して何ら通知がなかつたが偶然の機会からこれを知り驚いて口頭をもつて異議申立をしたが被申立人は理不尽にも滞納があるから処分するとの一点張りで全然うけつけず又滞納額について問合せてもこれを明らかにしなかつた。

ロ、そこで申立人は青森地方法務局十和田出張所へも行き調査した結果前記差押の原因となつた滞納というのは訴外江渡敬三所有(但し昭和三十五年一月二十日で竹ケ原孫七に所有権移転)十和田市大字相坂字落間一一七番一号水田一反五畝八歩及び同所一二九番水田七畝九歩につき生じた水利費千九百八十二円であることが判明した。

ハ、然し乍ら右水田についての水利費は訴外江渡敬三所有当時の小作人であつた訴外丸井権太郎が完納済であつて滞納の事実はないものであつた。

ニ、けれどもここに至つては一時公売をさける為一先づ右金額を支払つた方がよいと考え昭和三十五年三月九日訴外竹ケ原孫七が被申立人に宛て 右金額を弁済供託し次いで同月十四日江渡敬三が同様弁済供託し更に同月二十四日申立人が書留郵便をもつて被申立人宛に右金額を送金し結局三名共非債弁済したのである。従つて仮りに前記水利費につき滞納があつたとしても右により滞納額の三倍の金員が支払済となつたのである。

4 被申立の滞納処分は公序良俗に反する職権濫用行為である。即ち前述の如くにもかかわらず申立人は差押を解除しないので訴外江渡敬三、及竹ケ原孫七は連名で被申立人の監督官庁たる青森県知事に対し実情を説明し陳情書を提出したところ県開拓課より直ちに被申立人に対し差押解除方を要請したにも拘らず被申立人はこれに耳をかさず申立人が婦人で世事にうといのに乗じて土地を奪わんとしわづか千九百八十二円の債権名義をもつて数百倍に値する別紙目録不動産二筆の公売を強行ししかも被申立人の理事長の長女丸井寿子を買受適格者として同人にこれを取得せしめんと図つているものである。

三、以上の如く被申立人の為した本件滞納処分はいづれの点よりするもの重大且つ明白な瑕疵があるので違法且無効の処分たることを免れないものである。

そこで申立人は本日御庁に右行政処分の無効確認訴訟を提起したが(参考判例広島高裁岡山支部昭和29年ろ第19号行政事件裁判例集9巻6号119頁)緊急これが執行の停止を得ないと公売が進行して公売処分完結するとき回復し難い損害が生ずる虞があるので前記滞納処分の執行停止を求めるため

本申立に及ぶ次第である。

(別紙目録省略)

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